繰延税金資産の計上の前提と問題点

最後に繰延税金資産の計上の前提と問題点について述べておきましょう。

 

繰延税金資産というのは、将来における課税所得の範囲で回収が可能な一時差異についてのみ計上できるのが前提ですが、繰延税金資産の計上額が一時差異解消の日程によって変化することになると問題点となる場合があります。

 

ここでの問題点は、一定の収益力を確保して繰延税金資産を計上していた企業が、もしも急激な経済環境の悪化などがあって、結果として以後に収益力がなかなか回復しない見込みとなったらどうかということです。

 

そうなると将来減算を行う計画スケジュールが立てられなくなり、法人税等を取り戻すチャンスは失われ、多額の繰延税金資産を毀損してしまうことも考えられます。こうしたことは金融危機や経済危機などがあると必ず話題となる会計関連項目なのです。大きな社会問題となった事例が2003年3月決算期におけるりそな銀行でも起きました。

 

ここでは監査法人が繰延税金資産組み入れの前提となる将来の収益性について疑問視をしたのです。結果、りそな銀行が論じた繰延税金資産5年分を3年分の組み入れしか認めない方針として、このためにりそな銀行の自己資本比率が何と国内基準である4%を下回る2%台に転落する可能性が出てしまったのです。

 

そうなると預金保険法第102条第1項第1号に基づく資本注入が実施されたわけで、普通株での資本注入が行われたのでりそな銀行は事実上国有化されたのです。この問題は大きく、監査過程において共同監査をしていた朝日監査法人は辞退してしまった程です。